LEAFIA Life
リーフィアな暮らし

クラシックコンサートへようこそ

※2018年11月1日発行「リーフィアな暮らし」vol.25より転載

「働き方改革」の一環として、
アフターファイブや休日の楽しみ方が
注目されています。
“芸術の秋”
大人のコンサートへ出かけてみるのは
いかがでしょう。
なかでも敷居が高いと思われがちなのが
クラシックコンサート。
そこで、
1世紀以上の歴史を刻んできたオーケストラ、
「東京フィルハーモニー交響楽団」の
広報を務める松田亜有子さんに、
その魅力や楽しみ方などを教えていただきました。

サントリーホールにて撮影

「私はまだ11歳になるかならずの少女でしたが、そのコンサートが終演したとき、溢れんばかりの感動で、まったく動くことができませんでした」
こう語るのは、現在、東京フィルハーモニー交響楽団の広報渉外部長を務める松田亜有子さん。初めてオーケストラの演奏を聴きに、クラシックコンサートに出かけたときの大切な記憶です。
以来、ピアノを学び続けながら、クラシックコンサートで体感する“至福の音”に触れ、「ここまで人を虜にしてしまう音楽とは一体何なのか?」と思うようになった松田さん。
「全身が音の波に包まれた、あの感動が、現在の仕事の原点になっていますね」と笑顔を見せます。
これほどまでに松田さんを感動させる、クラシックコンサートの魅力とはどのようなものなのでしょうか。

パトロンに頼らないフリーの音楽家ベートーヴェン

サントリーホールにて撮影

「CMや映画、フィギュアスケート、ホテルやカフェのBGMなど、皆さんの周りは数え切れないほどのクラシック音楽で溢れています」と松田さん。
「縁遠く感じている方も多いかと思いますが、きっとご存知の曲がたくさんあるはずです」
クラシック音楽とは、18世紀から19世紀にかけて、教会や宮廷、サロン、コンサートホールで演奏されたヨーロッパの音楽を指します。その歴史は紀元前まで遡り、5世紀半ば、クラシック音楽のルーツとも言える神を賛美するグレゴリオ聖歌が誕生し、キリスト教の布教と共に広がり進化していきました。以来、教会と王侯貴族の援助を受けて発展していきます。
松田さんは、18世紀中頃から19世紀にかけてウィーンで活躍した「交響曲の父」と称される、ハイドンを例に挙げて教えてくれました。
「皆さんの記憶にもあるかもしれませんが、音楽室に飾られている作曲家の肖像は、立派なカツラを被っていますね。

バッハ、ヘンデル、ハイドン、モーツァルト。彼らは音楽召使で、パトロンの前ではカツラをつけなければならなかったのです。ハイドンは宮廷音楽家で、カツラを着用し、飾りのついた鮮やかな色の制服を身に着け、白い靴下を履く事を命じられていました」
そして、演奏会は華やかな宮廷で行われていたために、「クラシックコンサートは敷居が高いイメージが定着したのかもしれませんね」
しかし――1789年、一部の貴族と市民たちが 蹶起 けっき したフランス革命が勃発。社会の実権が市民へと移行していくのです。この時代のど真ん中に誕生したのがベートーヴェンです。
「ベートーヴェンは、王侯貴族のためでなく、国民のためですらなく、人類みんなのために曲を書くと宣言します」
ベートーヴェンはカツラをつけませんでした。クラシック音楽は少しずつ、市民――大衆の娯楽や教養として享受されるようになっていきました。
松田さんは、「それぞれの作曲家が生きた時代背景や、生き方そのものを知ることで、クラシック音楽に対する理解や親しみが深まります」と語ります。
欧米のビジネスパーソン界には、美術や音楽など芸術への造詣が深い人が多く、コミュニケーションの場では、その知識が人物の評価にもつながっているのだそうです。
「いま、私たちが耳にするその楽曲は、作曲家が数多く残した曲の中でも選ばれた曲です。人間が欲したからこそ、数百年にも渡り、今も受け継がれているのだと思います。作曲家のすぎやまこういちさんがクラシック音楽を“聴きべりのしない音楽”と言いました。ベートーヴェンやモーツァルトの音楽を全人類が200年以上聴いてもまだ飽きないというのは、音楽の真髄だと」
そして松田さんは、「クラシック音楽の基本は生演奏。興味を惹かれたら、難しいことは考えずに、是非、コンサートにいらしてください!」と語ります。

クラシック音楽の
魅力が詰まったオーケストラ

では、初心者はどのようなクラシックコンサートに行くとよいのでしょう。
クラシックコンサートには演奏形態の違いで「管弦楽」「室内楽」「器楽」「声楽」など、いくつかのジャンルがあります。
「初心者の方には、断然、様々な楽器で大人数で演奏される管弦楽(オーケストラ)のコンサートがお薦めです」と松田さん。
一般的な楽器構成と基本的な配置は、指揮者を前に、客席から見て左に第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、右にビオラ、チェロ、コントラバスの弦楽器のグループが並びます。その後ろにはフルート、オーボエといった管楽器が、さらに後方には、金管楽器のトランペット、トロンボーンやホルンが置かれ、並んでティンパニなどの打楽器が置かれます。それぞれの楽器の音の特長にあわせて伝統的に配置が決められているのです。
松田さんは、言葉にするのは難しいのですが、と前置きして、「この立体的に配置された様々な楽器が紡ぎ出す音の風圧みたいなものが全身を包み込み、その臨場感は圧巻です!」

さらに、「演奏者が超技巧を持ったプロであるならば、耳でも目でも感動は倍増します」と熱く語ります。そして、“もうひとつの楽器”と呼ばれるのがコンサートホールです。 クラシックコンサートは電気的な機材を介さない生演奏ですから、オーケストラが奏でる至福の音を、より効果的に客席に届けるために、音響が細かく計算され、素材や形状にもこだわりが持たれています。
「CDなど録音されたものでは聴こえない音が聴こえてくる」そうです。
そして、指揮者や演奏者は、そのコンサートホールごとに、ベストな演奏になるよう微妙な調整をするとのこと。オーケストラのコンサートはダイナミックでありながら、とても繊細なのです。

指揮者によって
新たな命が吹き込まれる

演奏される楽曲は、「同じ楽曲でも、タクトを振る指揮者によって多彩な様変わりを見せます。ここはとても魅力的なところですね」と松田さん。
「社長が代われば、その会社は変わりますよね。ただ、その社長に能力がなければ成長にはつながりません。指揮者にも同じことが言えるのです」
現在、東京フィルハーモニー交響楽団の名誉音楽監督を務めるチョン・ミョンフンは、アジアの宝とも言われ、圧倒的な音楽性で楽員を導くとともに、類稀なるマネージメント能力も備えています。
「この二つは、指揮者にとって極めて重要な要因です。多くの演奏者から信頼を得て、演奏する楽曲の特質をどう表現するのか、指揮者はオーケストラを率いるリーダーの役割を担っているのです」
このように、指揮者の違いで同じ楽曲が変わるように、それは、演奏者であるオーケストラやコンサートホールの違いでも変化するそうです。
この多彩な音楽性の中から自分の好みを見つけ出していく、こんなところもクラシック音楽の魅力のひとつなのですね。

初心者のコンサートデビューは「交響曲」がお勧め

それでは、どんな演目のコンサートを選べばよいのでしょう。
「クラシック音楽で最も重要なジャンルのひとつである、オーケストラの大規模な楽曲『交響曲』をお薦めします。様々な楽器が紡がれて音がひとつになった時。心をとらえて離さない美しい旋律を聴くと、もうやみつきになります」と松田さん。
さらに、作曲された時代背景や楽曲のストーリーを知ると楽しさもぐっと深まるそうです。また演奏会のプログラムは「序曲、協奏曲、交響曲」という流れが定石ですが、人気のある交響曲だけを演奏するコンサートもありますので、好みによって選ぶのも良いでしょう。そこで、初心者にお薦めの作曲家と作品を松田さんに選んでいただきました。皆さんがご存知の楽曲もきっとあるはずです。

至福の音を求めて、さあコンサートホールへ

取材当日、東京フィルハーモニー交響楽団も定期演奏会を行う、東京・新宿区にある「東京オペラシティ コンサートホール」をご案内いただきました。
ステージ正面には荘厳なパイプオルガンが鎮座し、木の温もりに包まれたホール内には、ピラミッド型の高い天井の頂点にある天窓から光が差し込みます。白を基調にした、ホワイエにはクロークやビュッフェがあり、少し着飾ってコンサートに訪れたら、どんなに素敵なことだろうか…と期待が膨らみます。そして、少しアドバイスをいただきました。
「クラシックコンサートでは、演奏中の入出場はマナー違反になりますから、もし遅れてしまった場合は、係りの者の指示に従ってくださいね」と。
こうしたクラシックコンサートマナーの基本を事前に知っておくと安心ですね。
そして、松田さんからも初心者の皆様へ、
「服装は、普段着でもかまわないのですが、せっかくの機会ですから、少しオシャレをして特別な気分を味わってはいかがでしょう。

また、クラシックコンサートは、基本的に未就学児は入場できませんが、託児サービスを行っている場合もありますのでご確認くださいね」とのこと。特別に、お子様も参加できる「ファミリーコンサート」も開催していて、ロビーで楽器に触れることができたり、茶目っ気ある異色のプログラムも用意されているそうです。お子様と一緒にクラシック音楽を楽しく体験できそうですね。
このようにクラシックコンサートでは、豊富なプログラムが組まれていますので、オーケストラやコンサートホールのホームページなどで事前に調べることも大切ですね。
最後に松田さんにお伺いしました。松田さんが初めて行ったあのオーケストラのコンサートは…?
「はい、今でもハッキリ覚えています。フェドセーエフ指揮、モスクワ放送交響楽団。本当に素晴らしいコンサートでした」
さあ、皆さんも、感動の“至福の音”を求めて、クラシックコンサートにお出かけになってみてはいかがですか。

コンサートホールへ行こう!

もうひとつの楽器とも称されるコンサートホール。
クラシックコンサートをメインにオーケストラの公演も数多く行われる
至極のホールをご紹介します。
その音響もさることながら、
華やかな雰囲気が漂うホワイエには、
クロークやビュッフェ・ドリンクコーナーなども備わり、開演前や休憩時間にも上質なひと時を
過ごすことができます。

写真提供:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

東京オペラシティ コンサートホール

1997年にオープンしたクラシックコンサート専用のシューボックス形式のホールです。高い天井には大胆な変形ピラミッド型を採用し、内装には振動体・共鳴体として優れている「天然木」を使用。現代の最新音響技術を用いて設計されています。これにより、ホール自身が、分離よく明瞭に響き、引き締まった低音とメローで艶のある音色を持つ巨大な楽器となります。天窓から溢れる自然光とともに、あたたかく心落ち着く空間を提供しています。

住所
東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL
03-5353-0788
電車
京王新線(都営地下鉄新宿線乗り入れ)「初台」駅東口より徒歩5分
小田急小田原線「参宮橋」駅より徒歩14分
都営地下鉄大江戸線「西新宿五丁目」駅A2出口より徒歩17分
URL
www.operacity.jp
写真提供:サントリーホール

サントリーホール

「世界一美しい響き」をコンセプトに掲げ、第一線の指揮者や演奏家の意見が取りいれられた、クラシック音楽専用のコンサートホールです。日本初のヴィンヤード形式を採用し1986年にオープン。壁面の内装材にはウイスキーの貯蔵樽に使われるホワイトオーク材を、そして、床や客席の椅子背板にはオーク(楢)材をと、ふんだんに木を使用し、あたたかみのある響きを実現。音響的な効果とともに、視覚的にも落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

住所
東京都港区赤坂1-13-1
TEL
03-3505-1001
電車
東京メトロ銀座線・南北線「溜池山王」駅13番出口より徒歩7分
東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅3番出口より徒歩5分
URL
suntory.jp/HALL/
写真提供:株式会社 東急文化村

Bunkamuraオーチャードホール

1989年開館のシューボックス形式を採用した国内最大規模のホールです。高く平らな天井と垂直で大きな壁側に、音が何度も繰り返し反射して重厚で豊かな音場を生み出しています。最大の特色は、ステージに設けられた可動式音響シェルター。シェルターを移動させることで劇場としての機能も実現。クラシックコンサートをはじめ、オペラ、バレエ、ポピュラーなど、異なるジャンルを一つの空間で提供できるコンバーチブルホールとして頂点を極めています。

住所
東京都渋谷区道玄坂2-24-1
TEL
03-3477-3244
電車
JR線「渋谷」駅ハチ公口、東京メトロ銀座線・京王井の頭線「渋谷」駅より徒歩7分
東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷」駅3a出口より徒歩5分
URL
www.bunkamura.co.jp/orchard/

Profile

松田 まつだ 亜有子 あゆこ Ayuko MATSUDA
公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
広報渉外部長
長岡市芸術文化振興財団、東京フィルハーモニー交響楽団で企画・広報に従事し、高い評価を得る。その後、日本郵政株式会社、株式会社経営共創基盤(IGPI)を経て、2013年再び、東京フィルハーモニー交響楽団に戻り、周年事業等、各公演の広報渉外統括責任者として世界各地への広報、主催者との交渉を務める。活水女子大学音楽学部ピアノ・パイプオルガン学科首席卒。

*2018年10月31日現在

東京フィルハーモニー交響楽団
1911年創立の日本で最も長い歴史を持つオーケストラ。楽団員130名余りが所属。シンフォニーオーケストラと劇場オーケストラの両機能を併せもち、定期演奏会や特別演奏会のほか、国内各地での公演は多数。海外公演も積極的に行い、音楽ファンに親しまれる存在として、高水準の演奏活動と様々な教育活動を展開している。
*詳細はホームページで〔URL〕www.tpo.or.jp
『クラシック音楽全史ビジネスに効く世界の教養』(ダイヤモンド社)
いまや、ビジネスパーソンの教養のひとつとして必要なクラシック音楽の知識を、音楽家の人生と名曲を背景にやさしく紐解いた、松田さんの最新刊です。

取材協力: 公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団 / 公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
写真提供(公演写真):ⓒ上野隆文