LEAFIA Life
リーフィアな暮らし

こうじ たしな

※ 2017年10月1日発行「リーフィアな暮らし」vol.23より転載

美味しくてヘルシー、
美容にも良いと、評判の〝麹〟
日本酒造りには欠かせないものとして知られます。
そこで、自然酒の蔵元
「寺田本家」24代目当主ご夫妻にその魅力と
麹パワーを生かした、
多彩な〝麹レシピ〟を教えていただきました。
その深い味わいには、
長い歴史の中で受け継ぎ、育ててきた
自然とつながる「日本人の生き方」が
垣間見えるのです。

蒸しあがった米が固まらないように何度も手をいれ、熱を取る作業。酒蔵には甘い香りと白い蒸気が漂います。

甘い香りが広がる酒蔵で昔ながらの酒造りを

利根川のほとりに位置する千葉県神崎町は、昔から美味しい酒を生む 酒処 さけどころ です。その醸造文化を今に伝える自然酒の蔵元「寺田本家」は、1200年の歴史を刻む神崎神社の小高い森を背に開けます。この鎮守の森の湧き水が、美味しい酒造りに一役買っています。
広大な敷地には、蓮の花が咲き、 烏骨鶏 うこっけい が遊ぶのどかな風景。酒蔵からは酒米を蒸す甘い香りが広がります。創業は江戸時代初期の延宝年間(1673~81)頃。
「私で24代目になります」と話す当主の寺田優さんは、寺田本家の次女・聡美さんと結婚するまでは、酒造りとは全く無縁の生活でした。夕食は夜遅くにコンビニ弁当で済ませる食生活の中で、玄米や野菜などを中心にしたマクロビオティックのカフェに勤めていた聡美さんが作ってくれたお弁当に、心も体も優しく包まれました。
「玄米のおにぎり、野菜たっぷりのおかず、昔懐かしい味の漬け物を、しみじみと美味しいと思いました」と優さん。
こうした聡美さんとの出会いをきっかけに、やがて優さんは、「微生物の力」を借りた昔ながらの酒造りに大きな感動を覚えたのです。

蒸した米は にしき (大きな 蒸籠 せいろ )から急いで出されます。

日本の風土とともにある麹は、美味しい和食のルーツ

微生物の力を借りるために必要なのが、実は麹です。そもそも麹とは、カビの一種である麹菌を、蒸した米や麦、大豆などの穀類に加えて繁殖させたもので、日本酒はもちろんのこと、味噌、醤油、みりん、酢など、日本の調味料のほとんどが麹を使って作られた発酵食品です。
そして、日本の発酵食品の多くは、この地で育まれる分解能力に優れた麹菌(黄麹)から生まれます。麹菌は、温暖多湿な日本の気候風土に適しているカビで、日本の『国菌』に認定されています。日本は世界でも有数の発酵王国ですが、それは〝国のカビ〟麹菌を繁殖させた麹があったからです。
すでに奈良時代には酒造りが行われていたと伝わります。江戸時代には、麹から作られる甘酒が庶民の夏バテ予防の栄養ドリンクとなっていて、「甘酒」は夏の季語として今も俳句に詠まれます。
「麹が分泌する酵素のアミラーゼは、デンプンをブドウ糖に、プロテアーゼはタンパク質を分解して旨味成分のアミノ酸の一種、ペプチドを作ります。この働きが海外からも注目されている和食の旨味とコクなどの美味しさにつながるのです」と優さん。そう、麹パワーが〝日本の味〟を生み出しているのです。

小さな命と時間の流れが醸し出す神秘の世界「発酵」

麹室に運ばれた自家製種麹の様子を見つめる優さん。

優さんは、酒蔵で採集した天然の麹菌を使った寺田本家の麹を作る工程を見せてくれました。酒造りの職人さん 蔵人 くらびと たちが全身の力を込めて、蒸しあがった酒米を揉み返す光景は、まさに圧巻。この作業を3回繰り返した後、麹菌を振りかけ、酒造りは「発酵」へと入ります。
「発酵の宝庫、酒蔵のある環境で育ってきた私よりも、主人のほうが発酵という世界に魅了されたようで、発酵について深く勉強したと思います」と聡美さんは笑顔を見せました。
優さんは、「菌たちが共生して自然の流れの中でゆっくりと発酵していく神秘の世界は、効率化や均質化を目指してひた走ってきた現代社会とは、対局にあるのではないでしょうか。目が覚める想いでした」と言います。
そもそも発酵とは、目には見えない微生物の働きによって食物が分解され、人間にとって有用な成分に変化することです。こうして出来上がるのが発酵食品です。
このことに気づいた先人たちは、小さな命と時間の流れが醸し出す実りを受け取り、自然と共に生きるそれぞれの文化として継承していきました。
「発酵も腐敗も原理は同じです。しかし、発酵すると、瞬間、瞬間、変化し続け、常に同じ状態ということはありません」と優さん。
これが「発酵すると腐らない」仕組みです。「食べ物も体も家庭も社会も、発酵しなくなると腐ってしまう。微生物に感謝して、ワクワクして発酵しちゃえばみんな上手くいっちゃうんだよ」という先代・啓佐さんの言葉が寺田本家の原点です。
「先代は『発酵力は〝発幸力〟』と言っていましたが、その通りですね」。優さんも聡美さんも、発酵と共に暮らす幸せを実感しています。その幸せのもとになるのが麹なのです。

カレーやグラタンも麹甘酒や酒粕で美味しくヘルシー

蔵人や四世代が揃う寺田家の賑やかな食卓に並ぶのは、聡美さんの〝麹レシピ〟を使った〝発酵ごはん〟と呼ばれる手作り料理です。砂糖の代わりに使われるのは麹甘酒。塩の代わりは塩麹。砂糖と塩という料理には欠かせない調味料として、甘酒と塩麴を使えば、コクと旨味のある発酵メニューとなります。この美味しさは子どもたちにも分かるのです。
聡美さんは、子どもたちが大好きなカレーやグラタンも、酒造りの副産物、酒粕をベースにしています。酒粕には、植物繊維やビタミン、コレステロールを燃やすレジスタントプロテインという成分が豊富で、酒よりも栄養価が高いと言われています。アルコール分をしっかり飛ばせば、旨味が残ってとても美味しくなります。
「ナポリタンやチキンライスには、トマトピューレに麹甘酒を加えた『甘酒ケチャップ』を使っています。カレーにはそれぞれのご家庭の味があると思いますが、ミキサーで柔らかくした麹甘酒を入れると、とてもクリーミーになります」と聡美さん。酒粕で作る冷製スープ「ガスパチョ」は、寺田家の子どもからお年寄りまで大人気です。手軽に使える塩麹や麹甘酒、酒粕などで、家族みんなが喜ぶ美味しい料理にトライしてみてはいかがでしょうか。

再認識されている麹を生かした食生活

「元気な麹を食べると、お腹の中からぷくぷくと元気に発酵していきます」と語る聡美さんは、子どもが生まれたのを契機に、我が家の食卓を発酵ごはんに切り替えました。発酵食品は食物の消化を助けるとともに、免疫力に良い働きがあると言われています。「現在、長女は12歳、次女は10歳になりましたが、彼女たちは風邪で寝込むようなこともなく、とても元気です。発酵は素晴らしい力を秘めていると実感しています」と聡美さん。 「私たちは大きな自然のつながりの中で生かされているのだと感じます」と優さんも穏やかな笑顔を見せます。
かつて日本の食卓にはそれぞれの家庭の味を反映した味噌や 糠味噌 ぬかみそ などの自家製発酵食品が並んでいました。〝麹〟を生かした食生活。この素晴らしさが再認識されています。その深い味わいには、自然と共に生きる日本人の暮らしの豊かさが満ち満ちているのです。

家族が楽しみにしている聡美さんの〝発酵ごはん〟が並んだ寺田家の昼ごはん。深みのある優しい味わいが、食卓を囲む家族の絆を育んでいきます。

家庭で出来る麹甘酒の作り方

材料(作りやすい分量) 冷たいご飯…300g
熱湯…300cc 米麹…100g

①冷たいご飯を炊飯器に入れ、熱湯を加えてよくかきまぜる。

②米麹をばらばらとかけ、ほぐしながら加えて、よくまぜる。

③炊飯器を保温(約55℃)にセット。ふたは開けたままにし、ふきんをかけ5時間ほどおく。

●気温などで発酵時間は変わります。好みの甘さになったら鍋に移して中火にかけ、焦げないようにかきまぜながら沸騰したら火を止める。
保存期間は、密閉容器などに入れて冷蔵庫で1~2週間くらい。

寺田本家が教えてくれた
発酵ごはん。

写真は3〜4人分
酒粕ガスパチョ
トマトのさわやかな酸味と酒粕のコクが美味しい冷製スープ。
◆材料(2~3人分):トマト 2個、パプリカ 1個、きゅうり1/2本、玉ねぎ1/6個、にんにく1/4片、酒粕 大さじ1、オリーブ油 小さじ1、塩小 さじ1と1/2、こしょう 少々
◆作り方:①野菜は全て適当な大きさに切る。少量、飾り分の野菜をみじん切りにする。②鍋に酒粕と同量の水を入れ、弱火にかけアルコール分を飛ばす。③全ての材料をミキサーにかけなめらかにし、一晩寝かせる。 ④③を器に盛り、①のみじん切りの野菜を飾り、オリーブ油(分量外)を回しかけ、こしょうをふる。
甘酒ごまだれと生春巻き
甘酒の甘みが、ごまだれのコクをさらに引き出します。
◆材料:甘酒50g、練りごま 大さじ1、しょうゆ 大さじ1、レモン汁 大さじ1/2、ラー油 小さじ1/2、生春巻きの皮 、レタス、きゅうり、パクチーなど
◆作り方:①甘酒に、練りごま、しょうゆ、レモン汁、ラー油の順に混ぜ合わせ、たれを作る。 ②生春巻きの皮を水で戻し、好みの野菜を巻く。 ③②と①を皿に盛り付ける。
写真は1人分
味噌と豆腐のドライカレー
さっぱりとした豆腐と野菜と味噌によるマイルドな旨味が楽しめるカレー。
◆材料(2~3人分):玉ねぎ300g、にんじん100g、じゃがいも200g、ピーマン1個、にんにく1片、しょうが1片、木綿豆腐1丁、味噌40g、油 大さじ1強、カレー粉 小さじ1、塩 小さじ1/2
◆作り方:①玉ねぎ、にんにく、しょうがをみじん切りにする。にんじん、じゃがいも、ピーマンは1㎝角に切る。②フライパンに油を引き、玉ねぎをあめ色になるまで炒める。 ③①の野菜、カレー粉を加えて炒め合わせ、さらに、ほぐしながら豆腐も加えて全体を炒め合わせる。④しっかり水分が抜け、そぼろ状になったら味噌、塩で味を調える。
塩こうじのアヒージョ
塩麹が引き出す、にんにくと野菜とオリーブオイルの旨味のハーモニー。
◆材料(2~3人分):エリンギ 1/2p、かぶ1個、ミニトマト4個、にんにく2個、唐辛子1本、塩こうじ 大さじ1/2、オリーブ油1/4カップ、パセリ少々
◆作り方:①エリンギ、かぶは、適当なサイズに切る。ミニトマト、にんにくは縦半分、唐辛子は種を取り、半分に切る。②フライパンに油、唐辛子、にんにくを入れて弱火にかける。③②の香りが出てきたら、エリンギ、かぶを加え、両面をしっかり焼き、きつね色に仕上げる。④上から塩こうじを回しかけ、刻んだパセリを散らす。

Profile

右: 寺田 てらだ まさる Masaru TERADA
自然酒蔵元「寺田本家」24代目当主
1973年大阪府生まれ。自然酒蔵元「寺田本家」24代目当主。千葉県 神崎 こうざき 町の「神崎発酵の里協議会」の代表世話人。大学在学中から世界各地を旅し、卒業後は動物カメラマンに。31歳で寺田本家に婿入りしてから、先代当主・寺田啓佐さんのもと、無農薬の米作り、酒造りを修行。〝本物の自然酒〟にこだわり、酒を造り続ける。地元を中心に〝発酵〟を身近に感じてもらえるイベントも展開している。
左: 寺田 てらだ 聡美 さとみ Satomi TERADA
「寺田本家」23代目の次女
1977年千葉県生まれ。「寺田本家」23代目の次女。玄米や野菜、豆類などを中心にした料理マクロビオティックを学ぶ。雑穀カフェ勤務などを経て、メキシコやキューバなどを旅した後、優さんと結婚、家業を手伝う。ホームページで紹介していた麹や酒粕を使った料理が評判を呼び、雑誌でのレシピ提案や不定期で料理教室を開いている。2017年春、「発酵暮らし研究所 & カフェうふふ」をオープン。
[寺田本家]
自然に学ぶ酒造りをモットーに、昔造りにこだわりぬいた純米酒を醸している。その先駆けとなった代表銘柄「五人娘」は、舌先のみならず体の細胞が喜ぶ濃醇な味とふくよかな香り。
住所:千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964
TEL:0478-72-2221 URL : http://www.teradahonke.co.jp
[発酵暮らし研究所 & カフェうふふ]
寺田本家の発酵調味料や天然醸造の調味料で味付けした小鉢と雑穀ごはん、旬菜の味噌汁などのランチ、オーガニックコーヒー、酵素ジュースなどのドリンクが楽しめます。チーズ工房の開催など発酵文化にまつわるイベントなども行われています。詳しくはホームページでご確認を。
住所:千葉県香取郡神崎町神崎本宿1968-2
TEL:0478-79-8284 営業時間:11:00~18:00 不定期営業
URL : https://www.teradahonke-ufufu.com

『創業三四〇年 自然酒蔵元 寺田本家
麹・甘酒・酒粕の発酵ごはん』(PHP研究所)

寺田優・聡美さん夫妻の共著による家族がいつも元気でいられる〝発酵ごはん〟を紹介しています。